この間の晩、偶然スーザンが虹の谷にサンザシが咲き出したといった。 スーザンがそう言い出したとき、あたしはちょうどお母さんの方を見ていた。お母さんは顔色を変え、妙な喉をつまらせたような叫びを上げた。ほとんどいつもお母さんは勇気にあふれ、陽気に振舞っているので、心のうちでどんな思いをしているのか見当もつかない。けれども、ときおり、小さな事柄に耐え切れなくなり、あたし達に表面の下を見せる。
『サンザシですって?ジェムが去年私に摘んできてくれた!』
こういうと、お母さんは立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。あたしは虹の谷へ駆けていって、お母さんに一抱えもサンザシを持ってきてあげたいと思ったが、お母さんの求めるのは花ではない事が分かっていた。昨夜、ウォルターは家へ帰ってから、そっと谷へ出て行き、見当たる限りのサンザシを全部お母さんに持ってきた。そのことを誰からも聞かなかったのに。ウォルターはただ、今までジェムがサンザシの初咲きをお母さんに摘んできて上げたことを憶えていて、ジェムの代わりにそうしたまでなのだ。

(アンの娘リラより)

ウォルターとサンザシ

 
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